プロトコル論読本
アレクサンダー・R・ギャロウェイ『プロトコル』(2004)は、中心を持たないネットワークの中で管理がどのように働くかを論じた本である。この読本は、その議論を TCP/IP と DNS の違いを軸に図で説明し、さらに二つの方向へ延長する。一つは上へ、プラットフォームの時代にもプロトコルが土台に残っていること。もう一つは下へ、プロトコルの下には物理法則という、交渉も違反もできない制約があること。
プロトコルとは何か
「プロトコル」という語には二つの使われ方がある。外交では、国家元首の席順や挨拶の手順を定めた儀礼を指す。計算機では、機器どうしが通信するときのデータの形式と手順の約束を指す。ギャロウェイは両方の意味を重ねて使う。どちらも、上から命令する者がいなくても、参加者が同じ手順に従うことで秩序が生まれる仕組みだからである。
本書の英語版は MIT Press の Leonardo 叢書から 2004 年に出たGalloway 2004。ギャロウェイがデューク大学に提出した博士論文がもとになっている。邦訳は北野圭介訳『プロトコル──脱中心化以後のコントロールはいかに作動するのか』(人文書院、2017)があるartscape。
条件 1: 中心を持たない分散型のネットワークの中で働く。
条件 2: 個々の機器や参加者の振る舞いを、命令ではなく規格(何をどの順で送るか)として定める。
条件 3: 規格に従うかどうかは形式上は任意だが、従わなければネットワークに参加できないので、事実上は全員が従う。その結果として全体の秩序が生まれる。
この一文の「任意の(voluntary)」と「偶発的な環境(contingent environment)」が組になっている。どの機器がいつ参加し、どの経路が壊れるかは前もって決まっていない。その不確かな環境の中で、各参加者が自分から規格に従うことで調整が成り立つ。ギャロウェイはこれを、中心が消えたあとに管理が存在する形だと考えた。副題の「脱中心化以後、コントロールはどのように存在するか」はこの主張を指している。
隣接する概念との違い
| 概念 | 何が振る舞いを決めるか | 守らせ方 | プロトコルとの関係 |
|---|---|---|---|
| 法律 | 議会・裁判所が定めた規則 | 国家による罰 | 国境の内側で働く。プロトコルは国境をまたいで同じ規格を通す |
| 社会規範 | 慣習・評判 | 非難・排除 | 守らせ方が非公式である点は近い。プロトコルは機械が自動で判定する |
| 標準 | 標準化団体の文書 | 市場での互換性 | プロトコルの多くは標準として書かれる。ギャロウェイは標準化の過程も分析対象にする |
| アーキテクチャ | 技術の設計そのもの | できないことはできない | レッシグの用語Lessig 1999。プロトコルはその一種で、通信の設計にあたる |
| プラットフォーム | 一企業のサービス設計と規約 | アカウント停止 | プロトコルの上に作られる。第 6 章で扱う |
| 物理法則 | 自然 | 守らせる者がいない。破れない | プロトコルが選べる範囲の外枠を決める。第 7 章で扱う |
本書の構成
本書は三部に分かれる目次。第 I 部「脱中心化以後、コントロールはどのように存在するか」は、物理的媒体(Physical Media)、形式(Form)、権力(Power)の三章で、TCP/IP、DNS、HTML などの技術を読む。第 II 部「プロトコルの失敗」は制度化(Institutionalization)の章で、IETF や W3C などの標準化団体を扱う。第 III 部「プロトコルの未来」は、ハッキング、タクティカル・メディア、インターネット・アートを扱い、プロトコルの内側での抵抗を論じる。
第 1〜3 章と第 5 章はギャロウェイの議論の整理である。第 6 章(プラットフォーム)と第 7 章(物理法則)は、本書を出発点にしてこの読本が延長した部分であり、ギャロウェイ自身の主張ではない。読み分けられるように、延長部分では「本書は」「この読本は」と主語を書き分ける。本書の文言は、この読本の作成時に英語原文の全文を参照できなかったため、目次・書誌・読書ノートを経由して確認している。引用するときは原書か邦訳で確かめてほしい。
管理の型とネットワークの形
英語の control は、日本語では「管理」「制御」「コントロール」と訳される。ドゥルーズの societies of control は「管理社会」と訳されることが多いので、この読本では概念として「管理」を使い、邦訳書名に合わせる場合だけ「コントロール」と書く。工学の「制御」(フィードバック制御など)とは区別する。
フーコーからドゥルーズへ
ギャロウェイの議論は、権力の型を時代ごとに分けたフーコーとドゥルーズの図式の上に立つ。フーコーは『監獄の誕生』(1975)で、近代の権力が監獄・学校・工場・病院のような閉じた空間に人を囲い込み、時間割と監視によって身体を訓練することを示した。これを規律社会と呼ぶ。
ドゥルーズは 1990 年の短い論考「管理社会についての追伸」で、規律の囲い込みが崩れ、別の型の権力が広がっていると書いたDeleuze 1992。管理社会では、人は一つの施設から次の施設へ移るのではなく、どこにいても継続的に調整される。決め手になるのは壁ではなくコード(パスワードやアクセス権)であり、ある人がどこに入れるかは、その時点の数値によって変わる。ドゥルーズは管理社会の機械として計算機を挙げたが、具体的な仕組みは論じなかった。ギャロウェイはその空白を、インターネットの技術を読むことで埋めようとした。
| 社会の型 | 代表的な論者 | 権力の働き方 | ネットワークの形(バラン) |
|---|---|---|---|
| 主権社会 | フーコー | 君主が死を与える権利を持つ | 中央集権型 |
| 規律社会 | フーコー | 囲い込み・監視・訓練 | 脱中心型(階層的) |
| 管理社会 | ドゥルーズ | コードによる継続的な調整 | 分散型 → プロトコル |
バランの三つの図
ネットワークの形の分類は、RAND 研究所のポール・バランが 1964 年に書いた報告書『分散通信について』から来ているBaran 1964。バランの目的は、核攻撃で通信網の一部が破壊されても残りが通信を続けられる設計を示すことだった。彼は、一つの中心にすべてがつながる中央集権型、複数の中心が階層をなす脱中心型、どのノードも近くの数ノードとつながる分散型の三つを描き、分散型なら中心を壊されても通信が生き残ると論じた。
ギャロウェイは、この三つの図を主権・規律・管理の三つの社会の型に重ねた。インターネットは分散型のネットワークであり、分散型ネットワークで働く管理の形がプロトコルである。これが本書の骨格になる。
「分散しているから管理がない」と読むと、本書の主張と逆になる。ギャロウェイの主張は、分散型には分散型に固有の管理があるというものである。また、バランの報告がインターネットの直接の設計図になったわけではない。ARPANET が作られた目的は研究機関どうしの計算資源の共有にあり、パケット交換の考え方はイギリスのデイヴィスも独立に提案していた。バランの図は、ネットワークの形を比べるための道具として使われている。
TCP/IP と DNS
本書の議論の中で最もよく引かれるのは、インターネットの二つの基本技術を対立する二つの「機械」として並べた部分である。一つは TCP/IP で、通信を分散させる。もう一つは DNS で、名前を階層の中に置く。ギャロウェイは、プロトコルはこの二つの逆向きの技術の矛盾の上に成り立っていると書いた読書ノート。
TCP/IP: 経路は網の目
IP(Internet Protocol)は、データを小さなパケットに分け、各パケットに宛先の番号(IP アドレス)を付けて送る規格であるRFC 791。途中のルーターは、パケットの中身を見ずに宛先だけを見て隣のルーターへ渡す。同じ通信のパケットが別々の経路を通ってもよく、途中で一部が失われてもよい。失われた分の再送や順序の並べ直しは、両端の機器が TCP(Transmission Control Protocol)で行うRFC 793。
この設計では、網の中央は単純なまま、機能は両端に置かれる。これはエンドツーエンド原理と呼ばれ、1984 年に原理として書かれたSaltzer+ 1984。中継するルーターは誰の通信かを区別しないので、どのノードも対等に見える。インターネットが「誰にも管理できない網」というイメージを持つのは、この層の性質による。
DNS: 名前は木
人は IP アドレスの数字ではなく www.example.jp のような名前でサイトを指す。名前から番号を引く仕組みが DNS(Domain Name System)で、1983 年に提案されRFC 882、1987 年に現在の形にまとめられたRFC 1034。名前は右から読む木構造になっていて、頂点に「ルート」があり、その下に .jp や .com などのトップレベルドメイン、さらにその下に個々の組織の名前が並ぶ。上の階層は、下の階層の名前を誰が管理しているかの情報(委任)を持つ。
この木の頂点にあるルートゾーンは一つしかない。ルートゾーンの内容は IANA(現在は ICANN の子会社 PTI が運営)が管理し、12 の組織が 13 の名前で識別されるルートサーバーを運用しているroot-servers.org。ギャロウェイはこの性質を指して、DNS は管理を厳密に定義された階層に集めると書いた。上位の記載を消せば、その下の名前全体が引けなくなる。
.de の記載が壊れるとその下の名前がすべて引けなくなる(第 8 章の 2026 年 5 月の例)。一回のアクセスの中で二つが交互に働く
二つの機械は別々に存在しているのではない。ブラウザに名前を打ち込んでページが表示されるまでの一回のアクセスの中で、まず階層(DNS)をたどって番号を得て、そのあと網の目(TCP/IP)で直接つながる。ギャロウェイが「矛盾」と呼んだのは、自由に見える通信が、そのつど階層への問い合わせから始まるこの構造である。
層とカプセル化
本書の第 1 章「物理的媒体」は、プロトコルが層を重ねて働くことを説明する。上の層のデータは、下の層のヘッダに包まれて送られる(カプセル化)。Web ページのデータは TCP のヘッダに包まれ、それが IP のヘッダに包まれ、さらに Ethernet や Wi-Fi のヘッダに包まれて、最後に光や電波や電圧の変化として運ばれる。各層は下の層の中身に関与せず、上の層の中身も読まない。ギャロウェイは、この層ごとの無関心が、異なる機器と異なる媒体を一つの網にまとめていると論じた。
寄り道 1: ルートは本当に一点か
DNS の頂点は論理的には一つだが、物理的には一つの機械ではない。13 の名前で識別されるルートサーバーは、エニーキャストという方式で同じアドレスを世界中の多数の拠点から応答しており、拠点の数は千を超えるroot-servers.org。そのため、一つの拠点が攻撃されても名前解決は続く。
一方で、ルートゾーンの中身を誰が決めるかは一点に集まっている。この権限は長くアメリカ商務省との契約の下にあり、2016 年 10 月にグローバルなマルチステークホルダーの体制へ移管されたICANN 2016。さらに、DNS の応答が改ざんされていないことを保証する DNSSEC では、ルートゾーンの鍵(KSK)が信頼の起点になる。2026 年 10 月にはこの鍵の交代が行われた(第 8 章)。物理的な冗長性は大きく、編集権限と信頼の起点は一つである。ギャロウェイの言う「階層」は、この二つ目の意味で読むと正確になる。
寄り道 2: 頑健性原則
初期のインターネット設計者ジョン・ポステルは、TCP の仕様書に、送るものは厳密に、受け取るものには寛容にという原則を書いたRFC 761。他の実装が多少規格から外れていても通信を続けられるようにするためである。この原則は、規格への服従を参加の条件にしつつ、その条件を厳しすぎないものにした。プロトコルが多様な実装を取り込んで広がった理由の一つとされる。
のちに、寛容な受け取り方は規格外の振る舞いを固定化し、攻撃の入口にもなると批判された。規格を守らない実装に合わせ続けると、事実上の規格が文書の外で決まってしまうからである。2023 年に IETF はこの点を整理した文書を出しているRFC 9413。プロトコルによる管理の強さの度合いが、規格文書の一行で調整されていたことを示す例である。
寄り道 3: 本書が扱わない第三の機械、BGP
本書は TCP/IP と DNS を対にしたが、現在のインターネットを理解するにはもう一つ BGP(Border Gateway Protocol)が欠かせない。インターネットは、通信事業者や大企業がそれぞれ運営する数万の自律システム(AS)の集まりであり、BGP は AS どうしが「このアドレスには自分を通って届く」と互いに告知し合う規格である。告知の正しさは長く互いの信用に頼ってきた。BGP は網の目の中に置かれた、事業者間の合意の層と言える。第 6 章の 2021 年の事例は、この層で起きた。
短い歴史
技術の出来事と、それを論じた本を同じ年表に並べる。項目をクリックすると詳細が開く。
年表を通して見ると、技術の側では「一か所で管理する」方式が「委任と規格で調整する」方式に置き換わっていった。DNS が HOSTS.TXT を置き換えたのがその例である。論じる側では、1990 年代に管理社会と規制の理論が出て、2004 年にギャロウェイがそれを技術の中身に結びつけた。2010 年代には関心がプロトコルの上(プラットフォーム)と下(物理的な設備)に広がった。この読本の第 6 章と第 7 章は、この二つの方向を追う。
隣接する議論の地図
ギャロウェイの議論は、いくつかの議論の系統の交点にある。六つの系統をタイルに分け、それぞれの考え方を小さな図で示す。
レッシグとギャロウェイの違い
二人は「技術の設計が人の振る舞いを決める」という点で一致する。違いは処方にある。レッシグは、コードを書く者(企業や政府)に民主的な説明責任を求めれば、望ましいコードを選べると考える。ギャロウェイは、プロトコルの管理は特定の誰かが命じるものではなく、多数の参加者が自分から規格に従うことで成り立つので、責任者を名指しして直す処方は届きにくいと考える。そこで彼は、プロトコルを外から改めるのではなく、内側から使い倒して論理を露わにする実践に関心を移した。
プロトコルの内側での抵抗
本書の第 III 部は、ハッカー、コンピュータウイルス、サイバーフェミニズム、ゲームの改造、インターネット・アートを扱う。ギャロウェイはハッカーをプロトコルの敵としてではなく、プロトコルを最も深く理解して使う者として描き、「プロトコル的」と呼んだ。ハッカーの行為は規格の外に出るのではなく、規格が許していることを規格の作り手が想定しなかったやり方で使う。
タクティカル・メディアは、戦略(自分の陣地を持つ側の計画)に対する戦術(陣地を持たない側の即興)というド・セルトーの区別から来た語で、短期的に既存のメディアの隙間を突く実践を指す。インターネット・アートの例として、ブラウザの表示やエラーそのものを素材にした Jodi の作品が取り上げられる。
寄り道 4: エクスプロイト
『エクスプロイト』(2007)は、本書の第 III 部を理論として整理した続編であるGalloway+ 2007。エクスプロイトはもともと、ソフトウェアの脆弱性を突く攻撃コードを指す。ギャロウェイとサッカーは、ネットワークに対抗できるのは別のネットワークだけであり、抵抗はシステムの外からではなく、システムの欠陥を突くことで行われると論じた。
彼らは抵抗の方向として「過剰」を挙げる。プロトコルを拒むのではなく、プロトコルが望む以上に接続し、以上に複製し、以上に流通させることで、システムに負荷をかけてその論理を露わにする。ウイルスの自己複製はその例として扱われる。同時に二人は、この種の抵抗が既存のネットワークの論理を強めてしまう危険も認めている。分散型 SNS のような対抗ネットワークを評価するときには(第 9 章の争点 4)、対抗ネットワークもまたプロトコルによる管理の形をとるという点が問題になる。
プラットフォームの下のプロトコル
本書が出た 2004 年には、Facebook はまだ大学内のサービスで、iPhone もなかった。現在のインターネットの利用の多くは、少数の企業が運営するプラットフォームの中で起きている。そのため「ギャロウェイの議論はプラットフォーム以前のもので、もう古い」と言われることがある。
この読本の立場は、それに半分だけ同意する。管理の主な担い手がプラットフォームに移ったことは確かである。しかし、プラットフォームはプロトコルの上に建っていて、プロトコルなしには一日も動かない。プラットフォームのアプリも、名前を DNS で引き、経路を BGP で告知し、データを TCP/IP や QUIC で運び、TLS で暗号化している。プラットフォームの時代は、プロトコルの時代を終わらせたのではなく、その上にもう一つ層を積んだ。
砂時計の形
インターネットの層の構成は、しばしば砂時計にたとえられる。上の層(アプリケーション)と下の層(リンクと物理媒体)には多種多様な技術があるが、真ん中の IP だけはほぼ一つに絞られている。この細い腰があるので、どのアプリもどの媒体の上で動く。この形は、層をなす規格が競争の中で進化すると自然に生じるという研究もあるAkhshabi+ 2011。
プラットフォームとプロトコルの三つの関係
依存。プラットフォームはプロトコルの上で動き、プロトコルの層で起きた障害から逃れられない。2021 年の Facebook の停止がその例である(下の「詳しく」)。
吸収。大きなプラットフォームは、プロトコルの規格を作る側にも回っている。Google が自社のブラウザとサーバーの間で試した通信方式は、IETF での議論を経て QUIC として標準になったRFC 9000。HTML の規格は、主要ブラウザの開発元が中心の WHATWG が書き、W3C はそれを追認する取り決めを 2019 年に結んだW3C 2019。DNS の問い合わせを HTTPS で送る方式(DoH)は利用者を盗聴から守るがRFC 8484、ブラウザの既定設定によって問い合わせが少数の大手リゾルバに集まる効果も持つ。規格は開いたままでも、規格を書く人と動かす設備は集中しうる。
所有。プラットフォーム企業は、プロトコルの下にある物理的な設備も所有するようになった。2026 年 10 月の APNIC ブログで、ジェフ・ヒューストンは、いくつかの海域で Google が海底ケーブルの総延長の最大の持ち分を持つ見通しを示しているHuston 2026。砂時計の上と下を同じ企業が押さえ、開いたまま残る腰を挟む形になっている。
詳しく: 2021 年 10 月 4 日の Facebook 停止
プラットフォームの規模がどれほど大きくても、プロトコルの層で起きたことはそのまま全体に及ぶ。この事例は、それを最もはっきり示した。
| 時刻(UTC) | 出来事 |
|---|---|
| 15:40 ごろ | Facebook の BGP の経路情報の変更が急増するCloudflare 2021 |
| 15:50 ごろ | Cloudflare の公開リゾルバ 1.1.1.1 で facebook.com が引けなくなる |
| 15:58 | Facebook が自社 DNS サーバーへの経路の告知を止めていることを Cloudflare が確認する |
| 21:00 ごろ | Facebook の BGP の告知が再開する |
| 21:20 | 1.1.1.1 で facebook.com が再び引けるようになる |
Facebook の説明によると、原因は定期保守の中で、バックボーン(データセンター間を結ぶ自社網)の容量を調べるために出したコマンドだった。このコマンドが意図せずバックボーンの全接続を切った。本来はこの種のコマンドを止める監査ツールがあったが、そのバグで止められなかったFacebook 2021。
次に、DNS サーバーの安全装置が働いた。Facebook の DNS サーバーは、データセンターに到達できなくなると自分が不健全だと判定し、BGP で自分のアドレスの告知を取り下げる設計になっていた。不健全なサーバーに問い合わせを集めないための仕組みである。しかしこのときはバックボーン全体が切れていたので、すべての DNS サーバーが同時に告知を取り下げた。DNS サーバー自体は動いていたが、インターネットの他の部分からはどこにあるか分からなくなった。
停止は Facebook、Instagram、WhatsApp に及び、社内の連絡やドアの入館システムなど、同じ網に依存していた社内ツールも止まった。遠隔で網を操作する経路も落ちていたので、技術者は現地のデータセンターに行って機器を直接操作する必要があった。データセンターは物理的にも厳重に守られていて、入るのにも時間がかかったFacebook 2021。名前が引けないアプリが問い合わせを繰り返したため、Cloudflare によれば世界のリゾルバは通常の約 30 倍の問い合わせを受けたCloudflare 2021。
第一に、プラットフォームはプロトコルの上にあり、DNS と BGP の層での一つの判定(「自分は不健全なので告知を取り下げる」)が、数十億人のサービスを止めた。図 3 の左右両方、つまり網の目の中での経路の告知と、名前の階層の両方が関わっている。第二に、復旧はプロトコルの層ではできず、人が物理的な建物に入って機器に触れる必要があった。プロトコルの下に物理の層があることを、この事例は運用の現場で示した。第 7 章はこの物理の層を扱う。
寄り道 5: 「プラットフォームではなくプロトコルを」
2019 年、マイク・マスニックは、言論の場を一企業のプラットフォームではなく開いたプロトコルの上に作り直すべきだと論じたMasnick 2019。投稿の保存、表示の順序、不適切な投稿の扱いを、プロトコルに従う多数の事業者が分担し、利用者が選べるようにするという提案である。Bluesky の AT Protocol や、Mastodon などが使う ActivityPub は、この方向の試みである。AT Protocol は 2026 年に IETF の作業部会で標準化の議論が始まった(第 8 章)。
ギャロウェイの議論から見ると、この提案はプラットフォームによる管理をプロトコルによる管理に置き換えるものであり、管理をなくすものではない。分散型の SNS でも、どの規格に従うかが参加の条件になり、規格を書く場所が新たな権力の場所になる。この点は第 9 章の争点 4 で扱う。
物理法則という法
プロトコルは人が書いた規格なので、書き換えられる。IPv4 は IPv6 に、HTTP/1.1 は HTTP/3 に置き換えられてきた。しかし、プロトコルの層をいくら下に降りても書き換えられない制約が最後に残る。信号は光より速く進めない。雑音のある回線で送れる情報量には上限がある。情報を消すには熱が出る。地球の上にある限り、どの網もこれらの物理法則に従う。この章は、物理法則を「誰も制定せず、誰も執行せず、誰も破れない法」として読み、プロトコルとの関係を考える。
本書の第 1 章の題は「物理的媒体」だが、そこで扱われるのはプロトコルの層としての物理層(ケーブルや信号の規格)であり、物理法則そのものではない。この章の議論は、この読本による延長である。キットラーのメディア唯物論(第 5 章のタイル F)とブラットンのスタック論(タイル E)が近い方向を向いている。
光速: 遅延には下限がある
真空中の光の速さは毎秒約 30 万 km である。光ファイバーの中では、ガラスの屈折率(約 1.47)のために毎秒約 20 万 km に落ちる。どれほど良いプロトコルを設計しても、往復の時間(RTT)は「距離 × 2 ÷ 信号の速さ」より短くならない。
この下限は、プロトコルの設計にも経済にも形を与えている。Web の応答を速くするために、大手のサービスは利用者の近くにサーバーを置く(CDN)。地球の反対側にある一つのサーバーから全員に配ると、光速の下限だけで往復 100 ミリ秒を超えるからである。プラットフォームが世界中にデータセンターを建てる理由の一部は、光速という法にある。
高頻度取引では、この下限そのものが競争の場になった。2010 年に Spread Networks は、シカゴとニューヨークの取引所を結ぶ最短に近い経路に新しく光ファイバーを敷き、往復 13.33 ミリ秒の回線を提供したLight Reading 2010。経路長は約 1,330 km で、光ファイバーの速さで計算するとほぼ下限に近い。その後、空気中を真空に近い速さで進むマイクロ波の回線が引かれ、光ファイバーより速くなった。市場間で情報が伝わる時間は、光速の下限に近づいたことが測定されているLaughlin+ 2014。低軌道衛星の間をレーザーで結ぶ網も、真空中の光速を使えるので、長距離では光ファイバーより遅延を小さくできると予測されているHandley 2018。
月までの距離は約 38 万 km なので、往復は 2.6 秒になる。火星では、位置によって片道 3 分から 22 分ほどかかる。TCP は数秒以内に応答が返ることを前提に作られているので、地球の外ではそのままでは働かない。宇宙通信のために遅延を前提とした別のプロトコル(DTN)が設計されているのは、プロトコルが物理法則に合わせて書き換えられる例である。
情報理論: 送れる量には上限がある
シャノンは 1948 年に、雑音のある通信路で誤りなく送れる情報量の上限(通信路容量)を示したShannon 1948。上限は、使える周波数の幅と、信号と雑音の強さの比で決まる。符号化の工夫でこの上限に近づくことはできるが、超えることはできない。
無線では、使える周波数の幅そのものが有限の資源になる。そのため電波の周波数は国際電気通信連合(ITU)と各国の法律で配分され、携帯電話事業者は帯域の利用権に巨額を払う。物理法則が上限を決め、その上限の内側を法律が配分し、配分された帯域の中でプロトコル(5G や Wi-Fi の規格)が使い方を決める。三つの「法」が重なっている例である。
熱力学: 計算には熱が出る
ランダウアーは 1961 年に、1 ビットの情報を消去するには、少なくとも温度に比例した量のエネルギーが熱として出ることを示したLandauer 1961。室温(300 K)では 1 ビットあたり約 3×10−21 ジュールである。この下限は 2012 年に実験で確かめられたBérut+ 2012。
現在の計算機の消費電力はこの下限よりはるかに大きく、下限が実用上の制約になっているわけではない。実際の制約になっているのは、電力の供給と冷却という工学と経済の制約である。国際エネルギー機関によれば、データセンターは 2024 年に世界の電力消費の約 1.5% を使い、2030 年までに約 2 倍になる見通しであるIEA 2025。データセンターの立地は、電力網、冷却水、気温で決まる。プロトコルは場所を問わない設計だが、その下の設備は熱を捨てられる場所を選ぶ。
地球: 海と太陽
大陸間の通信の大部分は海底ケーブルを通る。ヒューストンの整理では、世界で年に約 200 件のケーブル故障があり、その約 86% は漁業や船の錨によるもので、地震などの地質現象は約 7% であるHuston 2026。2006 年の台湾沖の地震では、ルソン海峡のケーブルが多数切れ、11 隻の修理船がすべてを直すのに 49 日かかった。ケーブルは浅い海と海峡に集まるので、紅海の入口のバブ・エル・マンデブ海峡やシンガポール付近のような狭い場所が弱点になる。
太陽も通信網に影響する。大規模な太陽嵐は地磁気を乱し、長い導体に電流を誘導する。1859 年のキャリントン・イベントでは電信線が火花を出したと記録されている。2021 年の研究は、同規模の太陽嵐が来た場合、光ファイバー自体は影響を受けにくいが、長距離の海底ケーブルに電力を送る中継器が壊れうること、高緯度を通るケーブルほど危険が大きいことを論じたAbdu Jyothi 2021。
三つの「法」を比べる
| 物理法則 | プロトコル | 法律・契約 | |
|---|---|---|---|
| 誰が定めたか | 誰も定めていない | 標準化団体の参加者 | 議会・当事者 |
| 破れるか | 破れない | 破れるが、破るとつながらない | 破れるが、罰や賠償がある |
| 執行者 | 不要 | 相手の機械(規格外の通信を受け付けない) | 国家・裁判所 |
| 変えられるか | 変えられない | 新しい規格を書き、普及させれば変わる | 改正・再交渉で変わる |
| 及ぶ範囲 | 全宇宙で同じ | 規格に従う機器の間 | 国境・契約の当事者の内側 |
この表から、プロトコルが物理法則と法律の中間にあることが分かる。プロトコルは人が書いたものなので変えられるが、従わなければつながらないという点で、執行者を必要としない。ギャロウェイがプロトコルを「命令のない管理」と呼んだ理由は、この中間の性質にある。プロトコルは、法律の側から見ると自然法則のように振る舞い、物理法則の側から見ると人為の取り決めにすぎない。
物理法則を「法」と呼ぶことの利点と注意
物理法則を法として読むと、二つのことが見えやすくなる。一つは、どの層の管理も、最後には物理的な設備の上で働くことである。2021 年の Facebook の停止を直したのは、データセンターに入った人の手だった。もう一つは、物理法則そのものは中立でも、その配分は中立ではないことである。光速は誰にとっても同じだが、取引所の隣にサーバーを置ける者と置けない者がいる。光速の下限は、取引所との距離を売り物に変え、近さに値段を付ける。物理法則が、場所と資本を通じて社会の序列に変換される。
注意も一つある。プロトコルや設計の選択を、物理的な必然であるかのように語る言い方がある。「技術的にできない」という説明の中には、物理的に不可能なことと、プロトコルやプラットフォームがそう決めているだけのことが混ざっている。前者は交渉できず、後者は交渉できる。図 9 の入れ子のどの境界の話をしているかを区別すると、管理が働いている場所を見誤らずに済む。ギャロウェイが分析した「命令のない管理」は、この二つの区別がつきにくくなるところで働いている。
2026年の出来事
2026 年に起きた、プロトコル・DNS・物理的な設備に関わる出来事を月ごとに並べる。前年の出来事でも、今年の議論の前提になるものは冒頭に置いた。
詳しく: .de ドメインの障害(2026 年 5 月 5 日)
この障害は、DNS の木の一つの枝で起きたことが、その下のすべての名前に及んだ例である。図 3 の右側が、そのまま現実に起きた。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何が起きたか | DNSSEC の定期的な鍵交代の際に、.de の多くの署名が不正になり、約 3 時間にわたって .de のドメインへのアクセスが大きく制限されたDENIC 2026 |
| 原因 | 自社開発の鍵交代ソフトのバグ。一つの鍵の組をすべてのハードウェア鍵保管装置(HSM)に入れるべきところを、装置ごとに別々の鍵を作って一台ずつに入れた。三つの鍵が同じ識別番号を持ったため、署名の約 3 分の 1 しか正しくなかった |
| 見逃された理由 | 試験環境の HSM が一台だけだったので、誤った処理の経路が試験で通らなかった。三つの監視ツールが異常を検知したが、通知が正しく処理されなかった |
| 影響の範囲 | 署名を検証するリゾルバは委任の情報を不正と判定したため、DNSSEC を使っていない .de のドメインも引けなくなった。検証しないリゾルバでは影響がなかった |
| 応急の対応 | 大手のリゾルバ運営者の一部が、.de について一時的に DNSSEC の検証を止め、利用者への影響を減らした |
| 再発防止 | コードレビューの改善、警報の強化、正しいゾーンへの迅速な復元手順、配信前の部分検証、鍵交代の一時停止、外部による分析 |
二つの点がこの読本の議論に関わる。第一に、影響が「DNSSEC を使っていないドメイン」にまで及んだことである。個々のドメインの持ち主が何も間違えていなくても、上位の階層の不具合で名前が消えた。階層型の管理では、下位の参加者は上位の正しさに依存するしかない。
第二に、応急の対応が、少数の大手リゾルバ運営者による「一つの国のドメインについて安全確認を止める」という判断だったことである。利用者の多くがこうした大手リゾルバを使っているので、数社の判断で影響の大きさが変わった。DNS の階層の頂点だけでなく、名前を引く側(リゾルバ)にも集中があり、その集中が障害時には復旧の手段にもなった。第 6 章で見た「規格は開いていても、動かす設備は集中しうる」という関係が、ここでも現れている。
ギャロウェイが TCP/IP と DNS を対にしたとき、DNS の階層は抽象的な構造として論じられていた。2026 年の二つの出来事(5 月の .de、10 月のルート鍵の交代)は、その階層が鍵・署名・HSM・監視の通知といった具体的な運用の連鎖で支えられ、その連鎖のどこかが切れると名前の木の枝ごと消えることを示した。階層の管理は、命令ではなく手順として働いている。
争点
1. プラットフォームはプロトコルを置き換えたか
置き換えたと見る側は、利用者が実際に経験する管理(何が表示され、誰が排除されるか)は、プラットフォームの規約とアルゴリズムで決まっていると指摘する。プロトコルの層の管理は、多くの人の生活では背景に退いている。
置き換えていないと見る側は、第 6 章で見たように、プラットフォームはプロトコルの上でしか動かず、規格の作成にも深く関わっていると指摘する。管理の目立つ場所は上に移ったが、管理の土台は下に残っている。この読本は後者の立場をとるが、利用者が経験する管理を論じるにはプラットフォームの分析が別に必要だという前者の指摘も正しい。
2. 開いた標準は今も中立か
中立と見る側は、IETF の規格は誰でも読めて誰でも実装でき、会合にも誰でも参加できると指摘する。QUIC が IETF を経て標準になったように、一企業の技術も公開の手続きで検討されるRFC 9000。
中立でないと見る側は、規格の議論に継続して参加できるのは技術者を常勤で送れる大企業であり、HTML のように実装の多数を握る企業が規格を事実上決める例もあると指摘するW3C 2019。ギャロウェイが第 4 章で論じた「開かれた手続きが強い統制になる」という観察は、この争点の両側を同時に説明する。
3. DNS の頂点は管理の点か、調整の点か
管理の点と見る側は、ルートゾーンの編集権限と鍵が一つであることを挙げる。2026 年のインドの要望のように、国家がこの点の位置を気にするのはそのためであるMediaNama 2026。
調整の点と見る側は、ルートゾーンの中身は小さく変化も少なく、運用は多数の組織に分散し、2016 年以降は一国の政府の監督も外れたと指摘するICANN 2016。この読本の見方では、名前の一意性を保つには何らかの一点が必要であり、問われているのはその一点の統治の仕方である。
4. 分散型 SNS は管理から逃れるか
逃れると見る側は、AT Protocol や ActivityPub のように、利用者がサーバーや表示の方式を選べる設計では、一企業による排除や操作の力が弱まると考えるMasnick 2019。
ギャロウェイの議論に従う側は、分散型にしても管理はプロトコルの形をとって残ると考える。規格に従わないサーバーはつながらず、規格を書く場所(2026 年からは IETF の atp 作業部会)が新しい権力の場所になる。また、利用が大きな中継やサーバーに集まれば、プラットフォームと似た集中が再び生じる。二つの立場は、プラットフォームによる管理とプロトコルによる管理のどちらが望ましいかという問いに置き換えると、両立しうる。
5. 抵抗はまだプロトコルの内側でできるか
できると見る側は、脆弱性の研究、プロトコルの改造、インターネット・アートの実践が、システムの前提を露わにし続けていると指摘するGalloway+ 2007。
難しくなったと見る側は、プラットフォームの中では利用者がプロトコルに直接触れられず、改造の余地がアプリストアの規約で閉じられていると指摘する。抵抗の場所が、プロトコルの層から、規約や法律(相互運用性の義務化など)の層へ移っているという見方もある。
6. 物理法則まで降りると「管理」の概念はどうなるか
ここまでの争点は、管理が人の作った層(プロトコル、プラットフォーム、法律)のどこで働くかを問うてきた。第 7 章のように物理法則まで降りると、その前提が問われる。
一つ目の立場は、キットラーやインフラ研究に近いメディア唯物論である。この立場は、ソフトウェアやプロトコルの抽象は電圧・光・熱の上に乗っており、管理を論じるにはその物質的な条件から出発すべきだと考えるKittler 1995Starosielski 2015。物理法則は、すべての管理が従う最後の法として扱われる。
二つ目の立場は、レッシグや科学技術社会論(STS)に近い構成主義である。この立場は、物理法則そのものは管理ではなく、管理が生じるのは物理的な制約をどう配分するか(誰がどこにケーブルを敷き、誰が取引所の隣に立てるか)という社会的な選択の場面だと考えるLessig 1999。物理法則を「法」と呼ぶと、配分の選択まで自然の必然に見えてしまう危険がある。
この二つは対立しているように見えるが、問いの立て方が違う。前者は「何がどこまで可能か」を問い、後者は「可能な範囲の中で誰が何を選ぶか」を問う。図 9 の入れ子で言えば、前者は外側の境界を、後者は内側の境界を見ている。プロトコルの議論は、その間に挟まった層を見ている。三つを重ねて読むことで、ギャロウェイの「脱中心化以後の管理」は、上にも下にも延びる問いになる。
資料
まず読むもの
- A・R・ギャロウェイ『プロトコル──脱中心化以後のコントロールはいかに作動するのか』 北野圭介訳 · 人文書院 · 2017。本書の邦訳。
- Protocol: How Control Exists after Decentralization Galloway · MIT Press · 2004。原書。序論で TCP/IP と DNS の対が出てくる。
- Postscript on the Societies of Control Deleuze · October 59 · 1992。数ページ。邦訳は『記号と事件』所収。
- The Exploit: A Theory of Networks Galloway, Thacker · Univ. of Minnesota Press · 2007。続編。
技術の一次資料
- On Distributed Communications Baran · RAND · 1964。三つのネットワークの図。
- RFC 791 (IP) · RFC 793 (TCP) 1981
- RFC 882 · RFC 1034 Mockapetris · 1983 / 1987。DNS の設計。
- End-to-End Arguments in System Design Saltzer, Reed, Clark · 1984
- RFC 7282: On Consensus and Humming in the IETF 2014。「大まかな合意」の手続き。
- RFC 9413: Maintaining Robust Protocols 2023。頑健性原則の見直し。
- root-servers.org ルートサーバー運営者。拠点の地図。
プラットフォームとプロトコル
- More details about the October 4 outage Facebook Engineering · 2021
- Understanding how Facebook disappeared from the Internet Cloudflare · 2021
- Protocols, Not Platforms Masnick · Knight First Amendment Institute · 2019
- The Stack Bratton · MIT Press · 2015
- The Evolution of Layered Protocol Stacks Leads to an Hourglass-Shaped Architecture Akhshabi, Dovrolis · SIGCOMM · 2011
物理の層
- A Mathematical Theory of Communication Shannon · 1948
- Irreversibility and Heat Generation in the Computing Process Landauer · 1961 · 実験的検証 Bérut+ 2012
- Information Transmission between Financial Markets in Chicago and New York Laughlin, Aguirre, Grundfest · 2014
- Solar Superstorms: Planning for an Internet Apocalypse Abdu Jyothi · SIGCOMM · 2021
- The Undersea Network Starosielski · Duke UP · 2015
- Energy and AI IEA · 2025。データセンターの電力。
2026 年の一次資料
- Final Report: DNS Outage of 5 May 2026 DENIC · 2026-06
- Root Zone KSK Rollover Completed as Planned ICANN · 2026-10-15
- Authenticated Transfer (atp) charter IETF · 2026
- Submarine cable resilience Huston · APNIC Blog · 2026-10-14
- EU €347 million to protect Europe's submarine cables European Commission · 2026-02
継続的に追うなら
- APNIC Blog。ヒューストンの DNS・経路・ケーブルの分析。
- Cloudflare Blog。大規模障害の観測。
- IETF Datatracker。規格の草案と議事。
- IANA News。ルートゾーンと鍵の運用。
用語集
- プロトコル protocol
- 機器どうしの通信の形式と手順の取り決め。ギャロウェイは、分散型ネットワークで働く管理の形を指す概念として使う。
- 管理社会 societies of control
- ドゥルーズが規律社会のあとに来ると考えた社会の型。囲い込みではなくコードによる継続的な調整で人を扱う。
- 規律社会 disciplinary society
- フーコーの用語。学校・工場・監獄などの閉じた空間で、監視と訓練によって身体を形づくる。
- 分散型ネットワーク distributed network
- 中心を持たず、各ノードが近くの数ノードとつながる網。バランが 1964 年に描いた。
- パケット交換 packet switching
- データを小さな塊に分け、それぞれに宛先を付けて独立に送る方式。
- IP Internet Protocol
- パケットに宛先の番号を付けて中継する規格。砂時計の腰にあたる。
- TCP Transmission Control Protocol
- 両端の機器の間で、パケットの再送や順序の並べ直しを行う規格。
- DNS Domain Name System
- 名前から IP アドレスを引く階層的な分散データベース。
- ルートゾーン root zone
- DNS の木の頂点。トップレベルドメインの担当先を記載する。IANA が管理する。
- リゾルバ resolver
- 利用者に代わって DNS の木をたどり、名前を番号に変える機器やサービス。
- DNSSEC
- DNS の応答に電子署名を付け、改ざんされていないことを確かめる仕組み。
- KSK key signing key
- DNSSEC で他の鍵に署名する鍵。ルートゾーンの KSK は検証全体の信頼の起点になる。
- BGP Border Gateway Protocol
- 自律システムどうしが、どのアドレスに自分経由で届くかを告知し合う規格。
- 自律システム AS, autonomous system
- 一つの組織が一つの方針で運営する網の単位。インターネットはその集まり。
- エニーキャスト anycast
- 同じアドレスを複数の拠点から告知し、近い拠点が応答する方式。ルートサーバーが使う。
- カプセル化 encapsulation
- 上の層のデータを下の層のヘッダで包んで送ること。
- エンドツーエンド原理 end-to-end principle
- 機能は網の中央ではなく両端に置くという設計原理。
- 頑健性原則 robustness principle
- 送るものは厳密に、受け取るものには寛容に、というポステルの原則。
- RFC Request for Comments
- インターネットの規格や情報を記した文書群。
- IETF
- インターネットの規格を作る開かれた団体。投票ではなく大まかな合意で決める。
- ICANN / IANA
- ドメイン名・アドレス・プロトコル番号を調整する組織と、その機能。
- エクスプロイト exploit
- 脆弱性を突く手法。ギャロウェイとサッカーはプロトコルの内側での抵抗の型としてこの語を使う。
- タクティカル・メディア tactical media
- 既存のメディアの隙間を短期的に突く実践。
- 砂時計モデル hourglass model
- 上と下の層は多様で、真ん中の IP だけが一つに絞られている層の構成。
- 往復時間 RTT, round-trip time
- 信号が相手に届いて応答が戻るまでの時間。距離と信号の速さで下限が決まる。
- 通信路容量 channel capacity
- 雑音のある通信路で誤りなく送れる情報量の上限。シャノンが示した。
- ランダウアーの原理 Landauer's principle
- 1 ビットの情報の消去には、温度に比例した最小限の熱の放出が伴うという原理。